南北線に伸びるその広大な大地に、海、山、森林、砂漠といった雄大な自然を持つカルフォルニア。一年を通じて恵まれた温暖な気候も影響してか、昔から映画制作がすこぶる盛んだ。また近代的な大都市や美しい小都市に住む居住者たちも映画制作への理解は深く、市や町をあげての制作協力体制も行き届いている。そんなカリフォルニア、当然この地を舞台とした映画作品は数多く、ハリウッドという巨大な夢工場を要するロサンゼルス(以下LA)はもちろんのこと、さまざまな巨匠が好んでロケ地に選ぶサンフランシスコなどの大都市を中心に数々の名作が生み出されている。
例えば、映画の都ハリウッドを舞台とする作品たち。当然映画制作を題材にした作品が多く、いささか楽屋落ち的な傾向はまぬがれないが、多くの作品が登場してきた。古くは1937年に初映画(ジャネット・ゲイナー主演)され、後に1954年(ジュディ・ガーランド主演)にミュージカルとして、1976年(バーブラ・ストライサンド主演)には音楽業界に舞台を変え、2度にわたってリメイクされた『スタア誕生』。スターになることを夢見て田舎からハリウッドに出てきた少女の栄光と挫折を描いたこの映画の系譜は、近年、LAを舞台にクリスティーナ・アギレラとシェールが主演したミュージカル『バーレスク』(2010年)や、サイレント映画時代のハリウッドを描きアカデミー作品賞を受賞した仏映画『アーティスト』(2011年)へも連綿と受け継がれる。ハリウッド的なものと言えば『雨に唄えば』(1952年)など数知れず存在するが、前述の業界暴露的なもので挙げるならば、かつての大女優の悲劇を描いた巨匠ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』(1950年)がまさにその元祖的存在と呼ぶにふさわしい。そして近年ならば、ロバートアルトマン監督の群像劇『ザ・プレイヤー』(1992年)において他にはないだろう。大手スタジオで映画プロデュサーを務める男の犯罪を、時にはユーモラスに描いた本作は、ハリウッドの裏側が舞台ということもあって、有名スターが実名で多く登場する点も見どころとなっている。
そんなハリウッドンのお膝元LAである。映画の舞台としてはその利便性からかそれこそ挙げれば枚挙にいとまがないほど作品数は多い。それもさまざまなジャンルに及んでいるが、特に90年代以降、クエンティン・タランティーノ監督を皮切りにたくさんの優秀な人材が輩出され、あたかもLA発疹といったカタチで名作・怪作が世に送り出されている。
タランティーノ作品の例をあげると、衝撃だったデビュー作『レザボア・ドッグス』(1992年)をはじめ、カンヌ映画祭でパルムドールを受賞し世界的に一世を風靡した2作目『パルプ・フィクション』(1994年)、中年のスチュワーデスがLAの武器商人と丁々発止の駆け引きを展開する3作目『ジャッキーブラウン』(1997年)は、いずれもLAエリアを舞台とした犯罪映画だった。この3作には、ダウンタウン、アップタウン、ビーチ、ショッピングモール、レストラン等々、LAの日常でよく遭遇するありふれた光景と、クリーンで猥雑、そしてどことなく危険な香りのするLA独特の空気感が漂っている。
犯罪映画では他に、南カリフォルニア大学映画学科出身のブライアン・シンガー監督が送り出した『ユージュアル・サスペクツ』(1995年)が傑作だ。ある日、LAに隣接するロングビーチのサンペドロ港で、船の爆破炎上事件が起こる。ここで発見された数体の遺体を発端に展開する極上のミステリーは、その卓越した脚本でアカデミー脚本賞を受賞した。
古き良き時代のLAを舞台にした映画も数多く制作されている。30年代のLAに暗躍する魑魅魍魎たちを、ジャック・ニコルソン演じる私立探偵を通して描いたロマン・ポランスキー監督のフィルムノワール『チャイナタウン』(1974年)はその代表作だったが、ラッセル・クロウのハリウッド・デビュー作で警察映画の金字塔と呼ばれる『L.A.コンフデンシャル』(1997年)こそ、まさにその代表作としてふさわしい。この映画では、1950年代当時のKAの街並みや風俗、世相が克明に再現されて出色な出来映えだった、昨年、ショーン・ペンを主演に迎え、LA出身の新進ルーベン・フライシャー監督が撮った警察映画『L.A.ギャングストーリー』(2013年)が登場。ここにもCGを駆使した1940年代のLAが生々しく再現されていた。両作品とも、リトルトーキョーにほど近いロサンゼルス市庁舎タワーが、象徴的に登場しているのが印象的だ。
LA出身と言えば、ポール・トーマス・アンダーソン監督も90年代後半にデビューした逸材だ。彼は、70年代~80年代のハリウッド・ポルノ業界で生きるさまざまな人間模様を描いた『ブギーナイツ』(1997年)と、LAのマグノリア通りを中心に12人の登場人物が織りなす群像劇『マグノリア』(1999年)という、LAを舞台にした2本の作品を立て続けに発表。これらは、太陽が燦々と降り注ぐカリフォルニアというイメージの陰で蠢く、どろどろの人間たちの生き様を鋭く抉った怪作だが、特に後者に登場するトム・クルーズが演じたカルト教教祖の存在が、昔から新興宗教を受け入れてきた南カリフォルニアらしさを主張しているようで面白い。
以上は、ダウンタウンLAを舞台に制作された作品の数々だが、太平洋に面するビーチエリアがあるカリフォルニアだからこそ生まれた作品も数多く制作されている。
青春映画の金字塔として名高い『ビッグウェンズデー』(1978年)は、南カリフォルニア大学で映画を学んだジョン・ミリアス監督が、自らの青春時代へのオマージュとして脚本を書いた。舞台は厳密に限定されてはいないが、共同脚本のデニス・アーバーグがマリブ・ビーチのローカルサーファーであったことからも。サンタモニカ、マリブというLAエリアがその舞台であることは明白だ。また、カリフォルニア州出身で、史上初のアカデミー受賞女性監督のキャスリン・ビグローが、サーフィンをテーマに撮った『ハートブルー』(1991年)は、LAのベニス・ビーチを舞台に、FBI捜査官とサーファーによる銀行強盗グループとの攻防を描いたアクション映画だった。ハーバード大学出のエリート捜査官が、サーフィンの魅力に次第に取り憑かれていく様子が、あたかも南カリフォルニアに魅了されていく姿のようにも見えて興味深い。
カリフォルニアを舞台にした映画たち。今回はLAを中心にご紹介した。次回は、サンフランシスコとその周辺を中心にご紹介しよう。
井澤 聡朗
1955年生まれ。神奈川県在住。中学生の時に、フランスのヌーベルバーグ関連の映画作品に衝撃を受け、映画の世界に魅了される。その後70年代にアメリカン・ニューシネマの世界に親水。高校卒業後には日本大学芸術学部映画学科へ。30年以上にわたり映像プロデューサーとして第一線で活躍し、国際3D協会本部会主催「国際3D協会リミエール・ジャパンアワード2012」テレビ部門において優秀賞の受賞歴をもつ。現在もなお映画を愛して止まず、これまでに観た映画は3000本以上。またサーフィン雑誌「THE SURFER’S JOURNAL 日本版」の編集やロックバンド「IZAWA BAND」のVocal&Guitarを務めるなど、多彩な顔を持つ。